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パートアルバイトのシフト制のトラブル回避策-たかが以上以内、されど以上以内

更新日:10月16日

今回は、意外と盲点のテクニックでして、主にパートアルバイトの方の就業規則と雇用契約書(労働契約書)において、パートアルバイトのシフト制(以下、単に「シフト」とします)をとる場合、さりげない文言の「以上以内」を使うことで、法的効果は大きくなるという点を述べていきたいと思います。

裁判例や行政通達等の小難しい話は省いており、お気軽にお読みいただけるよう述べてまいります。


■1 シフトとは?

世の中に浸透している言葉ですが、よくあるのは、月単位や週単位の勤務時間を1つの表にまとめて記載するやり方です。

労使間で平和的、かつスムーズにシフトが組めるよう、事前に従業員さんから休日などの希望を吸い上げたうえで、会社の方で調整をし、仕上げていくアプローチがほとんどだと思います。

このシフトですが、コロナ禍で注目を浴びることになりました。


■2 どんな注目か?

飲食店などでは、お客様がほぼ来ないという非常事態が続き、開店休業状態や、お店を休業せざるを得ない事態が、結構な期間続きました。

このような事態で突如注目を浴びましたのが、シフトです。

雇用契約書などで、「勤務時間は1日●時間、休日は週●日のシフト」と決め打ちしているケース(硬直的と言えます)、一方で「勤務時間及び休日はシフトによる」とざっくり書いているだけのケースが両極端な事例になります。

両者の場合に、コロナ禍などで休業を余儀なくされた場合、従業員さんから生活できないから休業手当は欲しいと困窮されたらどうなるのでしょうか。


■3 会社に休業手当の支払い義務がある前提で考えますと

少なくとも会社に休業手当支払い義務がある、という前提で上記のシフトの運用を考えてみます。

※休業手当は、所定労働日に休業させる場合に支払うもので、所定労働日ではない日に支払うものではありません(支払えないとも言えます)。

①    「勤務時間は1日●時間、休日は週●日のシフト」

この場合、雇用契約書などで1日●時間、週●日の労働をする・させる、ということが決まっていますので、休業させる場合、休業手当の支払いは必要となります。

このような時間、日数の決め打ちパターンは、従業員さんからしますと安心ですが、会社からしますと硬直的で、いざ休業状態となった場合、考えたり工夫したりする余地はほぼありません。

②    「勤務時間及び休日はシフトによる」

この場合、労使間で1日や週の勤務時間を事前に決めていませんので、実際のシフトが出来上がるまでは所定労働日・所定労働時間が未定のままです。

ですので、極端な言い方をしますと「今月のシフトでは○○さんの勤務は0日です」というのは、原則として違法ではありませんでした。

そのため、全国各地で、休業手当をもらえないパートアルバイトの方が続出し、TVなどで取り上げられることとなりました。

※所定労働日ではないため、休業手当の支払い義務なし、となります。

この点、実は法的な規制がなく、コロナ禍で一気に注目を浴びたのです。

のちに、裁判例でこの点への修正がされていくことになりました。


■4 裁判例ではどんな修正がされたのか?

判決内容を細かく分析しますと、小難しくなりますので、今回はざっくりと述べていきます。

概要だけあげますと

  • 採用時のやり取り等から契約内容を認定していく

  • 勤務実態等から契約当事者の意思を合理的に解釈して認定していく

  • シフト決定権の濫用の問題として捉える

このようなアプローチを裁判所は行い、前述のような勤務日や勤務時間が定まっていないシフト制度に修正をかけ(会社にとっては不利)、現在に至っています。


■5 シフトは硬直的なもの、またはざっくり「シフトによる」のどっちが良い?

私は、硬直的なものは避けるべきであり、またざっくり「シフトによる」もおすすめはしていません。

硬直的なものが会社の裁量権をなくすという点は考える余地がありませんし、ざっくり「シフトによる」は求人を出しても避けられてしまう(応募が来ない)傾向が強まっているように思います。

正社員・パートアルバイトを問わず、昨今の超人手不足により、会社としては人手の確保を何とかしなければなりません。

では、どうすれば良いのかとの疑問が生じるかと思いますが、ここでやっと、今回のテーマのキーワードである「以上以内」が登場するわけです。


■6 以上以内は、法的にはとても柔軟な文言

就業規則や雇用契約書などで、「休日は週2日」と書きますと、所定労働日数は週5日と決まります。

一方、「休日は週2日以上」と書きますと、所定労働日数は週5日以下となり、週1日から5日の間のいずれか、となります。

※コロナ禍の際にあった、シフトゼロ(所定労働日数が週0日)というのは、極端すぎますのでここでは触れません。


また労働時間について、「勤務時間は1日7時間」と書きますと、所定労働時間は1日7時間となります。

一方、「勤務時間は1日7時間以内」と書きますと、所定労働時間は1日7時間以下となり、1日1時間から7時間の間のいずれかと、となります。

※時間単位で述べておりまして、上記同様に0時間というのは極端ですので触れません。


つまり、以上以内という文言を使用することで、会社の裁量権が大きくなるのです。

そのうえで、上記■4のような裁判所の修正論点に気を付けていただくわけですが、その点をシンプルにまとめますと「最終的にはどの程度のシフトに入っていたかの実態で判断される」となります。

ですので、以上以内という言葉はマストで使用された方が良いと考えていますが、「以上以内」とは違う書きぶりでも「実態判断は同じ」のため、文言によって会社の裁量権が「以上以内よりも更に大きくなる」ことは基本的にないとご理解いただければと思います。


■7 硬直した所定労働日数や所定労働時間だと何が問題か?

まず、所定労働とは、労使間で約束した労働日や労働時間のことで、その約束に対して会社側から守らなくて良いよ(働かなくて良いよ)とアプローチしますと、民法の規定により100%の賃金支払い義務が発生するのが原則で、少なくとも休業手当の支払いはほぼ免責されません。


会社の方で休業を命じた場合でも、賃金の100%、すくなとも休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が会社に生じます。

硬直的な所定労働(日数・時間共に)をもとに、会社から「仕事がないから休んでもらいたい」と言ってしまいますと、原則的には100%の賃金(少なくとも休業手当)支払い義務が発生するわけです。

※重要ですので、繰り返しました。


またシフトを減らした際、「契約違反だから賃金の支払い請求をする」と言われますと、会社としては反論が極めて困難になります。

一方、上記■6の「以上以内」であれば、実態判断という制限はあるものの、会社の裁量権は硬直した所定労働よりは大きいと言えます。

ですので、「以上以内」はおすすめなのです。


■8 たかが以上以内、されど以上以内

「以上以内」を意識して就業規則や雇用契約書などを作成されていない場合、たかが、ですが、されどの効果がありますので、是非ご活用いただきたいと思います。

ただし、硬直的な就業規則の規定に「以上以内」を付け加えますと労働条件の不利益変更に該当しますので、この点は要注意です。

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